俺は辺りを見回した。
 俺たち以外にはテラスに近いテーブルに座った女しかいない。あとは酔いつぶれたままの男がテーブルに突っ伏しているだけだ。俺は女を改めてよく見た。伸ばした金髪を後ろで一つにまとめていて、そこからいくらかこぼれた前髪が額とこめかみにかかっている。瞼をなかば落とした目には青灰色の瞳があって、こちらを見据えている。唇は薄く、顎の線も細い。全体に華奢そうな体をしていてとても狩りなど出来そうにないが、革鎧を身に着けている。冒険者なのだ。


 関わり合いになりたくないと思った。言っては悪いが、非力な女を俺たちの狩場に連れていけるわけがない。女の冒険者を見たことがないわけではないが、いずれも大柄で、男勝りの奴らだった。この女が何をどんな風に狩っているのか知らないが、恐らくは苦しい狩りをしているのだろう。それに付き合わねばならない義理はない。そんなことをしていたら身がもたない。黙って立ち去ろうと思ったが、何かが引っ掛かって立ちすくんだ。


「話だけでも聞いて欲しいんだけど」
 女はやや苦しそうな笑みを浮かべた。さすがに無視するのは悪い気がしてくる。俺はその場に立ったまま、せめて申し訳なさそうな声を出した。
「悪いが先を急いでいてな」
「狩りの仲間を募ってるのでしょう?」
 俺たちが仲間にしようとしているのはあんたのような女ではない、とは言いづらい。ちらっと相棒を見ると、ルメイは眉を吊り上げながら頷いて、聞くだけなら別にいいんじゃないの、という顔をしている。
「こっちのテーブルに来て座って。いい狩場を見つけたんだけど、わたし一人では捌けなくて困ってるの。聞いて損はないと思うけど」
 いい狩場、という言葉が気になった。
「それじゃ、邪魔するよ」
 俺は担ぎ上げた背嚢を女の座っているテーブルのそばに置き直した。椅子を引いて座ると、ルメイもそれに倣った。俺たちが席に座ると、女はほっとした顔をした。
「わたしはフィア。罠師よ。あなたはセネカさん、そちらはルメイさんよね」
 すっかり話を聞かれていたのだ。何を話したか忘れたが、大したことは言っていない筈だ。


「まず初めに断っておくけど」
 フィアと名乗った女は両手でマグカップを包みながら軽く首を傾けた。指だけ出る革手袋をはめている。
「わたしは滅多に酒場には来ないの。でもここ数日は入り浸ってた。そして、声をかけたのはあなたたちが初めてよ」
「そうか。それは光栄だな」
 俺はややおどけて答えたが、女に話を導かれるのに慣れていないのでなんとももどかしい。つい本音が出る。
「それならこちらも初めに断っておくが、実は俺たちはそんなに余裕がない。狩場であんたを庇ってやる自信もない。あんたと三人で狩りに行くのは無理だと思うよ」
 フィアが目を伏せて溜息をついた。
「わたしが剣を振り回して戦うと言うのなら、その通りだと思う。でもさっき罠師と言ったでしょ? わたしは女だけど、それなりの狩人なの」
 フィアはそう言って立ち上がり、何かを持ち上げるように両手を上げて、全身の装備がよく見えるようにした。青灰色の目はまっすぐこちらに向けられている。こんな小さな女の立ち姿にも関わらず、狩人のオーラのようなものを感じる。


 さっき思わず立ちすくんだわけが判った。俺は誰よりも武装にこだわる。見ていない積りでも、自然とフィアの装備が目に入っていたのだ。
 俺やルメイのような金回りの悪い冒険者は金属製の甲冑を買う金がない。運よくそうした装備が手に入れば、狩りの危険はぐんと減る。しかし罠師はモンスターと直接斬り結ばないので、重い金属製の鎧は必要ないのだ。つまり、フィアは革の鎧を選んで身に着けている。そう思ってよく見れば、小さな肩幅に沿って湾曲した堅い肩当、胸の膨らみの分だけせり出した胸当、細いウエストに比べて大きめに作られた草摺りなど、その鎧はどこをとってもフィアの体の線にぴったりと沿っている。こんな鎧をコボルトの死体から取るのは無理だ。フィアの革鎧は、採寸して注文した仕立品なのだ。


 それだけではない。フィアの鎧はその光沢から、いったん茹でて硬化させたハードレザーであることが判る。体幹などの防御すべき要所にポンチで穴を穿ち、真鍮のハトメをかませてから、リベットが留めてある。今は街の中にいるので取り外してあるようだが、そのリベットにはセグメンタータと呼ばれる、湾曲させた長方形の板金が取り付けられるようになっている筈だ。板金がつけば、斬撃から身を守ることが出来る。心臓や喉、手甲にあたる部分には、取り外しの出来ないスタッドと呼ばれる鋲が打ち込まれている。俺はイルファーロの防具屋をあちこち見て回っているが、こんな革鎧は見たことがない。これは特注品だ。


 フィアが椅子に座り直して前髪を持ち上げた。
「立ち回りをして死にかけたこともある」
 前髪の生え際に傷跡があり、頭頂に向かって伸びている。どこまで続いているのかは金髪に邪魔されて見えない。頭をこれだけ切られたら、髪は血潮で塗れそぼち、真っ赤な血が幾筋も顔を流れ落ちただろう。この涼しげな目をした女の顔が、いつか血塗れになったということだ。見ず知らずの女とはいえ、その傷がせめて髪の中に隠れるのを不幸中の幸いと思った。
「判った。あんたを子供扱いするのはやめる」
 フィアが髪から手を放し、均一に垂れて傷が隠れるように前髪を指で叩いた。幸いその表情に怒りは込められていない。男どもとのこうしたやり取りは初めてではないのだろう。


 フィアがどんな理由で冒険者をしているのか知らないが、今すぐやめるべきだ。俺と同年代のように見えるが、妙齢の女がわざわざこんな稼業に留まることはないではないか。黙って話を聞いていたルメイが、たまらずという感じで口を開いた。
「フィアさんと言ったね。あんたはなんで冒険者をやってるんだね」
 フィアはすっと目を逸らした。
「もしわたしの狩りを手伝ってくれるなら、いつかお話できるかもしれないわ」
 ルメイははぐらかされて気を悪くした様子はないが、俺はもう少し突っ込んで話を聞きたい気がした。もしやお尋ね者なのだろうか。こんな風に話を聞いているうちに釣りこまれて、最後には俺とルメイの死体が山野に転がるというオチではなかろうか。いずれにせよ詮索しても何も出てこないだろうが。


「話を元に戻すわ。信用できそうな人を、ここでずっと探してた。でもこのご時世でしょう? 探すのに手間取って、もう無理かと思い始めてた」
「俺たちが信用できるとどうしてわかる?」
 ルメイがフィアから見えないように、俺の足を指の背で叩いた。そうだな、ルメイ。わざわざ食ってかかる必要はないのかもしれない。だがこの騙されているような感じはどこから湧いてくるのか。
「わるいけどずっと話を聞いてたの。わたしは罠師としての腕以外、取り柄の少ない女だけど、それでも人を見る目はある積り」


 それは答になっていない、という言葉を喉元で止めた。その静かな口調から伝わってくるものがある。いざとなったら拳でも剣でもやりあうつもりの女剣士ならともかく、フィアのように体格に恵まれない女は冒険者たちのパーティーには入れないだろう。その装備を見れば、フィアが自分の力だけを頼りに一人でここまでやってきたのが判る。大所帯が嫌いな俺でさえルメイと二人で狩りをしてきた。一人だったのはほんのいっとき、それ以外はずっと隣にルメイがいた。


 フィアがこれまでに見聞きしてきたもの、見渡す限り誰もいない森に落ちる夕陽、暗い林で枯葉が風に舞う音、煮焚きをしても自分の影しかない野営地、酔って騒ぐ男たちの声を聴きながら見る宿屋の壁、そうしたものが目に浮かんでくる。俺は自分自身が何にいらついているのか判った。俺はこの女を信じたいのだ。しかし知らない相手を信じようとするのは苦しい。


「フィアさんはいい狩場を見つけたと言ってたけど、何を狩るんだい?」
 ルメイが話題を変えてきた。
「その前に、お二人が何を狩ってきたのか、教えてもらえない?」
 また話をはぐらかされた。わだかまりが募る。
「カリグラーゼの林でコボルトを狩ってる。それで耳を取って、街で銀貨にかえてる」ルメイはありのままを落ち着いた声で答えた。しかしそれを聞いたフィアの表情が動いた。
「コボルトを、二人で?」
「そうだよ」
 今の話のどこに疑問があるのか。俺はなんだかモヤモヤしてきて、女の話を聞くことにしたのを後悔し始めた。
「道具立ては?」とフィアが問うてくる。
「道具立て?」
 俺は鋭く切り返した。その顔にはこう書いてある。お嬢さん、コボルトを仕留めるのにどんな道具立てが必要だというのかね? 俺たちは剣が一本あればそれで十分だ。


「ごめんなさい。まだパーティーを組むと決まったわけでもないのに、細かいことを聞いてしまって」
「別にかまわないさ」とルメイが答える。俺の眉間に寄ったしわを、フィアが見ている。
「わたしは事情があって一人で冒険者として生きてきたの。そのわけを今ここで話すのは勘弁して」
「それでいいさ。俺たちはみんな同じようなもんだよ」
 しかり。それはルメイの言う通りだ。
「二週間くらい前に誰も知らない狩場を見つけた。かなりの稼ぎになるチャンスなんだけど、一人では手が足りないの」
 俺が思わず身を乗り出して、だからさっきからそれが何なのか聞いてるんだろう、と言いだす前に、フィアは急いで答えた。
「わたしが狩ろうとしてるのは、虫よ」
「虫って、あのでかくて、人によってはツノムシとか呼ぶ奴?」
 ルメイが確かめた。
「そうよ」
 フィアは自信なさそうにこちらの顔色を窺っている。虫を狩ることを話した途端にこちらが逃げ腰になると思っていたのだろう。やや俯いて上目づかいにこちらを見ている。虫を狩った経験は俺にもある。ロック隊長のパーティーでカオカ遺跡に行った時に相手にしたが、なんともやりづらい敵だった。







 それはコガネムシに似ていなくもないが、大きさが人間の胴回りほどもあるのだ。この辺りではカオカ遺跡でよく見かけて、たいてい三、四匹でかたまっている。侵入者に気付くと、甲羅のように硬い前羽をほんの少し浮かせて、その下に折りたたんでいる褐色の後ろ羽を広げて飛びかかってくる。飛ぶのは速くないので一匹なら剣で叩き落とすことも出来る。しかし数で攻められると、避けきれずに何匹か体に引っ付いてくる。そうなると大騒ぎである。脚の先に鋭いかぎ爪があって、鎧や背嚢にがっしり食い込んで離れない。虫には斬撃も打撃も効き目がなく、硬い甲羅に覆われていない所を探して刺すしかないのだが、仲間に引っ付いた状態だとそれもやりづらい。


 強面の剣士が虫にたかられて悲鳴をあげることもある。虫は思いのほか力強い脚を持っていて、引っ付いた相手を締め上げながらキチキチと鳴く。おまけに毒をもっていて傷口は腫れ上がり、人によって程度の差はあるが、ひどい痒みと高熱に襲われる者もある。顔に取りついたのを無理に引き剥がそうとすれば、かぎ爪で失明する恐れもある。仲間が虫にたかられたら、とりあえずかぎ爪をひとつひとつ引き剥がして取り除いてやらねばならない。そんな時にコボルトに襲われたら混乱の極みである。


 俺は腕組みをして唸り声をあげた。ルメイも低く唸りながら首をひねっている。フィアはこうした反応を予想していたようで、唇を引き結んでいる。
「俺は何度か虫を相手にしたことがあるが、好んで戦いたくはない奴だな」
 思っていることを言うと、ルメイも口を開く。
「誰も知らない狩場ってことだけど、協会の依頼なの?」
 それはそうだ。野生の虫を狩って、誰が金をくれるのだろう。
「依頼ではないの。虫の甲羅を取るのよ」
 フィアが足元に置いていた背嚢を自分の膝に持ち上げた。背嚢を開けて手探りしている間に、俺は目ざとく鎧に取りつける板金の束が入っているのを確かめた。フィアが二枚の板を取り出して手渡してくる。俺はそれを受け取り、一枚をルメイに渡した。


 板ではない、これは虫の甲羅だ。
 それを被ればちょうど人間の顔が全て隠れるほどの大きさがある。大まかに言えば長方形をしているが、長い方の始めと終わりが丸く湾曲している。虫の胸に近い方の湾曲はこんもりとしていて、抜けた奥歯の曲線を思い出す。尻の方の湾曲は自然なカーブになっている。ルメイが持っているのと二枚ぴったり合わせれば、いびつで底の浅い桶が出来そうだ。


 陽光にかざして甲羅の表面をじっくりと眺める。虫というのは、こんなに綺麗な色をしていただろうか。光沢のある青と緑が微妙な濃淡で入り混じりながら、陽光を反射してきらきらと輝いている。目をこらしてよく見ると、中央に藍色の帯が走っていて、その藍色の境界はサンゴのような複雑な模様をしている。
「俺がカオカ遺跡で見た虫は、もっとくすんだ赤茶色をしていたけどな」
「それが俗にツノムシと呼ばれる虫で、正しくはオニハナムグリというの」
「なんだって?」
 反射的に聞き返していた。フィアがうっすらと笑って、その名をゆっくりと繰り返す。
「オニハナムグリ。小さな昆虫のハナムグリは見たことあるでしょう? 花の中に顔をつっこんで幸せそうにしている可愛い甲虫よ」
「俺はそんな虫を気にして見たことがない」
「あらそう。でもカオカで沢山のツノムシを見たのなら、そのうちの何匹かが青みががってたのを覚えてない?」
 俺は記憶を辿ってみた。
「そうだな。色のちがう奴を見たことがある気がする」
「そう、それが今手にしている──」
「オオルリコガネ」
 ずっと黙っていたルメイが話に割り込んできた。


「ルメイさん、詳しいのね」
 フィアが嬉しそうな顔をした。ルメイは虫の甲羅をテーブルに置いて革鎧の襟ぐりを引っ張り、その下に手を入れて例の小さな手帳を取り出した。指をなめてページを繰りながらルメイが説明する。
「ツノムシが千匹いたとしたら、オオルリコガネはその中に一匹いるかいないかだ。とても珍しい虫で、その甲羅は象嵌細工の材料として珍重される」
「すごい。本当に詳しいのね」
 フィアが胸の前で手を合わせた。そんな話は初めて聞いた。俺は置いてけぼりにされた気分になっている。二人がどうして盛り上がっているのか判らない。確かに綺麗な色をしていて何かの材料になるのかもしれないが、こんな物に大金を出すやつがいるのか?
「この二枚を手に入れるのに、何匹の虫を狩ったんだい?」
 ルメイが目的のページに辿りついたようで、手帳の小さな字を目で追いながら質問した。フィアはにっこり笑い、たっぷり間を取ってから答えた。


「一日で五匹仕留めたの」
 ルメイが目を輝かせてフィアを見た。
「オオルリコガネの群生地を見つけたんだね」
「そう。五枚のうち三枚を売って、残りがその二枚よ」
「幾らで売った?」
 俺はもうただ話を聞いているだけだ。早く答えを言ってくれ。なんぼで売れるものなのだ。
「ちょっとばらつきがあったけど、一番高いのが銀貨二枚、安いのでも銅貨十枚にはなったわ」
 こんな物が銀貨二枚で売れるのか? 手にした甲羅をまじまじと見るが、とても信じられない。
「それは五枚を全部並べて見せて、そのうち三枚が売れたのかい?」
「いいえ。こうして誰かに説明するのに要ると思ったから、二枚は隠してたわ」


 ルメイが甲羅を見ながらじっと考えている。フィアは少し不安そうな顔になった。
「わたしはオオルリコガネの甲羅が売れるのは知ってたけど、残念ながら相場までは判らなかった。損してるの?」
「俺が記録してるのはずいぶん前の相場だから多少は食い違いがあるかもしれないけれど、そんな値段で売るなら、右から左に転売できるよ。おそらく五枚見せたら粘られて、全部売る羽目になってたんじゃないかな」
「なんですって」
 フィアの顔色が険しくなった。細い眉が寄っている。


「今ここに二枚あるけど、セネカの持ってる甲羅はいいところ銀貨三枚というところだな。ちょうど象嵌に使いやすい平らなところに瑕疵があるだろう?」
「どこにだよ?」
 俺は手にした甲羅をテーブルの上に置いた。
「ここと、ここ。それに、ここも」
 ルメイが指さすところを見るが、よく判らない。フィアも顔を近づけて見るが、腑に落ちない様子だ。前のめりになったフィアの頬に金髪がさらさらと流れてくる。フィアはそれを耳の後ろに引っかけた。
「オオルリコガネの甲羅は宝剣とか重箱とか、そういう工芸品を削ったところに膠で貼り付けて、さらに削ったり磨いたりして細工物に仕立てる。だから、大きなひとつなぎの、綺麗な模様が含まれているものが高く売れるんだよ」
 俺とフィアは感心してただ唸るばかりだ。
「俺が持ってる方は、銀貨十枚は固い。使いやすい平らな所に綺麗な模様がひろがってるからね。これなら重箱の上蓋みたいな広い面積にいっぺんに嵌めることが出来る。こういう甲羅は数千匹のツノムシを狩ってようやく手に入る品だよ。ただ残念なのは、表皮を付けたままにしてることと、小楯板を切り取ってることだね」
「すまんが言ってることがよく判らん」
 俺はもう降参した。フィアもまさかの展開に呆然として話を聞いている。
「表皮を剥いで、乾燥させて、ワックスを塗るところまでやってあるなら……」
 俺とフィアはルメイの言葉を待った。


「銀貨二十枚で売れると思う」
「ルメイさん、売ります。銀貨二十枚で売ります」
 フィアが甲羅をルメイに押し出しながら言う。ルメイが笑って言い返す。
「あいにく手元不如意でね」
「虫の甲羅がそんな値段で売れるのかよ」
 俺は頭をかきむしった。今からでもカオカに行こうかという気になる。
「たまたまそれが良い品だからね。均せば銀貨四、五枚ってとこだと思うよ。それに、こういうのを何十枚も一度に出すと、急に値が下がる。時間を置いたり、相手を変えたり、場所を変えたり、ちゃんとした値で売ろうと思ったら工夫がいるよ」
 フィアが恐れ入ったという顔をしてルメイに声をかける。
「ルメイさんは細工師だったの?」
「この手帳にまめに相場を書きつけてるだけだよ。それに忘れちゃならないのは、ツノムシを狩るのは一苦労ということだね」
 フィアが背筋を伸ばして得意そうな顔をする。
「わたしは罠師よ。剣士の皆さんのように、剣を振り回して狩るのではないの。やり方があるのよ」


 俺は顔色に出ないように気を付けながら計算をした。二人が三人になるということは、今までの五割増しの稼ぎがなければ糊口をしのげない。カリグラーゼの林で相変わらずコボルトを狩るなら、二日に一度は狩りに出てコボルトを仕留めなければならない。それが虫を狩るなら、一匹で銀貨四、五枚稼げるという。もっともそれは、フィアが知っている金ぴかツノムシばかりの狩場で、フィアの罠で狩ったとしての話だ。俺とルメイがカオカ遺跡に行って虫を狩っても、金ぴかツノムシに会えるのがいつになるか判ったものではない。それに俺たちは虫の甲羅を剣で傷だらけにしてしまうだろう。







「改めて聞きますが、わたしの狩りを手伝ってくれませんか? きっといい稼ぎになると思うのだけど」
 フィアが努めて表情を隠して声をかけてきた。俺がロニーに声をかけた時のような気持ちでいるのだろうか。
「セネカに従うよ。決めてくれ」とルメイが言う。
 俺は心は決まっているのに、頷きながら伏し目がちに考える振りをした。テーブルの上で街路樹の影が揺れている。
「そうだな。悪い話じゃないと思う。幾つか条件をのんでくれるなら、三人でパーティーを組んで虫を狩ろう」
「条件を聞かせて」
 フィアがひたと俺を見返す。
「リーダーは俺で、実入りは山分けにしよう。互いに呼び捨てで、でも紳士に振る舞うこと。そしてパーティーを解散したら、それぞれが狩場の秘密を守ること」
「公平な条件だと思う」フィアが一度深く頷いて答えた。
 俺はルメイを見て、フィアを見て、頷いた。こんなに早く仲間が見つかるとは思わなかった。
「それじゃ」と言ってフィアが拳を握った。俺が首を傾げていると、フィアは握り拳を胸につけて体をしならせた。
「こういうのやってみたかったの。さっきロニーさんとやってたでしょ?」
「ああ、なるほど」
 俺は拳を突きだした。フィアがパンチを繰り出してくる。
「えいっ」
 俺はあっと声をあげて拳を腹にあて、顔をしかめた。
「そのグローブ、鋲が打ってあるから!」
「ごめんなさい!」とフィアが叫ぶ。
「それじゃ俺も!」
 ルメイが拳を突きだすと、フィアが優しく拳を合わせた。俺とルメイとフィアは、イルファーロの酒場で、こんな風に出会ったのだ。


→つづき

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