俺とルメイとフィア姫の冒険
* * *
 我が友ルメイが日記をつける習慣をもっていたので、この物語を初めから最後まで書くことができた。それがなかったらここに書いたことは半分になってしまっていただろう。仲間を探しにイルファーロの街へ行くと決めた朝、心の中にはただ不安しかなかった。俺の覚えていることと言ったら、それくらいのものだ。

 イルファーロの酒場で、フィアと出会った。
 俺と、ルメイと、フィアの人生がそこで合流したのだ。今から思えば信じられない幸運だった。この裏切りにあふれた剣呑な時代に、薄情な奴は掃いて捨てるほどいるが、仲間と呼ぶにふさわしい相手にはそうそう出会えるものではない。王族が殺し合い、官吏は賄賂を取り、山賊が野山をうろつくこんなご時世だからこそ、心をひとつに出来る者と出会い、一緒に歩むことが出来たなら、笑うにつけ泣くにつけ生きる甲斐があるというものだ。

 前置きはこれくらいにして、本題に入るとしよう。
 俺とルメイとフィアの冒険は、ある日の朝、スラムの薄汚れた馬小屋で、こんな風に幕を開いたのだ。










01 最悪の朝だ。


02 馬小屋のような粗末な寝床であっても、


03 肌寒い風を突っ切って見晴らしの良い街道に出た。


04 ここから先はイルファーロ、王の統べる街。


05 正門をくぐると


06 「俺は酒が飲みたくて言うわけじゃないが、


07 俺は辺りを見回した。


08 今日は夜市のお祭りとあって、街には人が溢れている。


09 火移しの儀式が行われる噴水広場に出た。


10 窃盗兵セネカ・ハルバート。


11 網目のように路地の入組んだ旧市街を、


12 うさぎどんのお耳が伸びて


13 どうも俺の出番はなさそうである。


14 目をつぶり、鼻にカップをつけて薬湯の香りを嗅ぐ。


15 店主にお代わりの礼を言い、


16 フィアが浴室から出てきた。


17 ドアにノックの音がした。


18 夜道を歩く大勢の人を篝火が照らしだしている。


19 「近衛の検めである! 城門を開けよ!」


20 戻ってくるグリムが黒頭巾を連れている。


21 のっけからグリムの手札に三枚揃いが来た。


22 龍が街の上に伏せている。


23 「その籠を、金貨五枚で売ってくれんかな」


24 「フィアはどこへ行った?」


25 夜市に並んだ篝火がところどころ燃え尽き始めた。


26 「これはまた上品な味ですな」


27 「ニルダの火に触れるのだ」


28 湯の沸く音で目が覚めた。


29 廊下に人の気配がして、フィアが席を立った。


30 「わたしはホリー。あなたはセネカさんじゃない?」


31 装備が整ったので井戸端の列に加わった。


32 懐かしいカオカ街道を往く。


33 二枚岩の狩りを眺めていたら、横から男が歩いて来た。


34 カオカ遺跡は、神々の荒々しい所業を思わせる。


35 ルメイは両手でツノムシの頭を掴んでぐいぐいと


36 呪いの森。


37 「助けてくれ! 二枚岩に山賊が来た」


38 メメント・モリ


39 このままだとトーリンがやられる。


40 廃墟の壁を午後の陽が照らしている。


41 暗がりに少年と老人がいる。


42 カオカ遺跡を北西に抜けて荒野に出た。


43 坂道を上がるとカオカ櫓がよく見えた。


44 荒地の塔に夜がくる


45 まるで火竜の巣だ。


46 「ちょっとセネカ、場所代わって!」


47 水音で目が覚めた。


48 背後で二人が同時に立ち止まった。


49 荒野の廃れた祠で、料理をする女の手を眺めている


50 ルメイの唸り声がする。


51 旅支度を整え、口数も少なく峠道を下り始める。


52 アリア河の河原に出た。


53 男根をそそり立たせ、あご髭を撫でているフレイ神の像。


54 奇妙な風体の男が蜥蜴のように地を這っている。


55 月光が廃墟を照らしている。


56 霧深い木立の中にぽつねんと立っている。


57 「めぐり巡って、冒険者の手に」


58 黄金の森。


59 いつの間にか眠ってしまったようだ。


60 「そろそろ起きてくださいな!」


61 微風に揺れる蝋燭の火がほら穴を照らしている。


62 星が降るようだ。


63 甲冑姿の男たちが息を切らせて走っている。


64 寝返りをうつと、スープの匂いがした。


65 オオルリコガネの捌きはルメイに任せ、


66 毒矢だ。


67 フィアが慌てて下着を取り込んでいる間、


68 やがて西空が茜色に染まってきた。


69 俺はまたこの部屋にいる。


70 なにか悪い夢を見た気がする。


71 ほら穴に戻った俺たちは物も言わずに装備を整え始めた。


72 ルメイとフィアをほら穴に残して外に出る。


73 このまま斬り結んでいたらやられる。


74 混乱を抱えたまま暗闇に立っている。


75 薄目を開けるとフィアの顔が見えた。


76 「ソフィア・リヒテンシュタイン。それがわたしの名前よ」


77 しばらく呆けたように立ち尽くしていた。


78 生首を提げて崖下まで戻った。


79 殺された冒険者たちの、血塗られた受注票だ。


80 フィアが立ち止まって片手を上げ、木の幹に短刀を突き刺した。


81 命はひとつきりで、必殺技なんてない。


82 「話しておかなければならないことがある」


83 五十名からなる小隊を引き連れて一列に疾走しながら、


84 人通りのない朝の道を、馬がゆったりと進んでゆく。


85 「だまらっしゃい!」


86 暗い森に雨が降っている。


87 こいつは俺をまったく恐れていない。


88 死人の樽にゃあ十五人


89 「すまんが、あんたのことをとっぷり話したわけじゃないんだ」


90 こんなところに探し人がいる。


91 「あまり覗かないで」


92 「・・・わたしを庇って死んだの」


93 地下道の入口がどこにあるのか尋ねた。


94 思うに生きるとは、瑞々しさを保つということではなかろうか。


95 魔法の微かな光が石壁の廊下を照らしている。


96 「しっかりしてください!」


97 薄墨色の空に鐘の音が冷たく響いている。


98 それは、夜中のわずかな物音から始まった。


99 鉄板のたわみが解放された瞬間、


100 「抜けるような青空が見えたんだよ」


101 「生きるか、死ぬか。自分で決めるのです」


102 とある夏の日、俺は王宮の裏手で呆然と立ち尽くしていた。


103 ──これは夢だな。












登場人物 / 参考文献


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挿絵 森の人 「半体育座りの」





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